2022年は登山口からすぐに汗をかき、アウターを脱ぎインナーを脱ぎ
いつの間にかシャツ一枚で登っていたけれど
真冬の気圧配置となった今年は寒く、ときおり吹き込む風に震えながら
昨年は初めてそこで富士山の姿を見た富士見ベンチ、今年は雪雲が広がっているだけ
合戦小屋では最近冬の名物となったお汁粉を頂こうかとも思ったが
今日は日帰り、そしてこの風だ、アイゼンを着けると休憩も無く先を急ぐ

合戦の頭からは今日も槍の穂先が見える
ここからは冬道、赤旗に沿って尾根芯を進む
一気に風が強くなり、稜線の新雪をまき散らせ
この先は真冬の雪山であることを登山者に戒めている
その強風がふと緩んだとき
何気なく振り向くと、剱岳のようにも見える針ノ木岳
さらに右手には鹿島槍が浮かんでいる
合戦尾根から鹿島槍を望んだのは初めてではないだろうか


尾根から合戦沢を見降ろすと、ダケカンバの白い裸木が梢の先まで凍てついて
再び吹き荒れる強風に、纏わりついていた雪の結晶がきらきらと舞い散る
ダケカンバが冬の訪れに抗っているようにも見えるそのシーン
雪山は自然の厳しさと美しさに充ちている

燕山荘直下、冬道は階段では無く尾根をそのまま進み縦走路側から回り込む
その縦走路に出合った瞬間、足元が掬われるほどの風に動けない
ここまでの風を強風だなんて感じていたのは大間違いだったと知る
その風は燕岳への稜線上の雪をぜんぶ吹き飛ばし、トレイルに雪は無いほどだ
それって楽ちんで良いんだけど、雪を纏った女王様に会いに来た自分としては
なんだか寂しい気もする
立山、剱岳がすぐ近くに見え始める
何度歩いてもため息がこぼれるばかり、贅沢な展望だ
今や強風から暴風へと変わった風は
荒れ狂ったように稜線の新雪をまき散らし、その雪が山頂にまで飛んで来る
肺に射しこむような冷たい空気、粉雪がばらばらと叩きつける音を
手を広げ、全身で受けながら真冬の空を仰ぐ


風がすべてを拭い去ったかのような、無限の広さすら感じる冬空
いつまでもその空の下、冬に閉じ込められる前の空気を吸っていたかったけど
完全に冷え切った身体は限界を迎え、後ろ髪惹かれながら引き返す


無限の広さを感じた冬空は
あっという間に西からやって来る雪雲に覆われ始め
無駄な抵抗だと知っていながらも、その雲から逃れようと足早になった


風に煽られながら引き返した山荘の食堂で赤々と照らすストーブの暖かさに、全身が溶けてゆく
食事をオーダーして席で待っていると、小屋のスタッフと登山者の会話が漏れ伝わる
どうやら予約していないけど今日泊めてもらうことはできるかと尋ねているようだ
実は自分も着替えの類をザックに持っていて、予報に反して天気が良くなれば
泊れないかと、少しの期待は持っていたけど、どう見ても予報通りだ
小屋のスタッフは、どう応じるのだろうかと聞き耳を立てていると

営業は明日までなので泊れますが、今晩から天気は荒れますから
帰りの交通手段とかも考えると、あまりお勧めは出来ません
なんと素晴らしい対応なんだろうか
そもそもの予報からして今日ここに登れただけで充分でしょ、と心で呟いてると
どうやらお客さんも納得した様子と、熱々のカレーにお腹も心も満たされていった
そんな今年最後の山小屋のひととき


下山路
空はどんどん暗くなり、この後の荒れ模様を予感させる
そんな空を仰ぎ、もう誰もいない稜線に立ち尽くすと
心の底からの寂寥感に染まってゆく
燕岳の厳冬、今年もその美しさに圧倒された
素晴らしき最後の北アルプスとなった
















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