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試練と憧れ 剱岳

■山:剱岳
■山行日:2012年08月25日-26日
■目的:早月尾根を詰める
■ルート:登山口(06:00)-早月小屋(12:30)
     早月小屋(04:20)-剱岳(07:10-07:30)-早月小屋(10:00-11:00)-登山口(15:30)

剱岳
人は何故、こんなにも剱岳に憧れるのだろうか

登山を始めて2年目に別山尾根から登り、6年目となった昨年は長次郎谷から詰めた
長次郎谷、あの雪渓の中に立ったときの感動は忘れられない
そして、あの日からあと一つ、自分のスタイルとスキルで歩けるのは、あと一つ
その厳しさで有名な早月尾根からのルートだ、と、その日を楽しみにしていた
いつか、あの尾根を日帰りで一気にピストンしてやるんだと・・・
 
しかし、日帰りはあきらめた
この春からの転勤によって、たまに歩くとしても軽ハイクばかり
登山なんてほとんどしていないのだ、日帰りなんてムリだろう・・・
いや、日帰りに意味があるんじゃない、この尾根から剱岳を目指すことが目的なのだ
それに、朝焼けに染まる剱岳を歩くには、山中で一泊するしか無いのだ
そう自分を納得させて、単身赴任先である上州から一人、馬場島へと向かった
 


馬場島、その標高747M
今日は、ここから一気に1480M、早月小屋(旧伝蔵小屋)までただ登り詰めるだけだ
3時間の車中泊から目覚めると、駐車場から歩き始める
ほぼ1年ぶりのテン泊装備は想像よりも重く、水分を担ぎ過ぎたか?と思ったが
水場はゼロ、延々と続く樹林帯、そして今日も猛暑だ、水は多過ぎても大丈夫だ

芝生の美しい公園を抜け、登山口の案内に従って進む
そして、あの碑の前に立つと、その言葉を、ひと文字ずつ、ゆっくりと唱えた

試練と憧れ
なんと端的で、重く、そして美しい響きだろう

試練と憧れ
下山したとき、この二つの言葉を、私はどんな想いで見つめるのだろうか

さ、行こう
一年ぶりに肩に圧し掛かる重さを全身で受け止めながら歩き始めた私の後ろから
馬場島荘の6時のチャイムが鳴り響き、その音は谷間にこだました

土嚢を積んだ階段を進む、すぐに汗が滴る
たしか、この尾根の裾野には、立山杉があったはずだ、と思い出していると、目の前に巨木が現れた
そう、この地も立山エリアなんだ

松尾奥の平、その名の通りフラット、そして広がった登山道脇にはベンチまである
どうにか1年ぶりの背中の重さにも慣れたころ、ここからエンジンをかけるところだけど、ベンチで一息
先は長いのだ、ゆっくりわしわしと歩こう


松尾奥の平から二度目の休憩だったろうか
丁度、腰を下ろすのに適した岩の上で座っていると、遠くから聞こえる読経のような音とともに
それがやって来た、アブの群れだ
あっという間に全身にまとわりつき、腕を、足を、耳を指して行く、ここは危険だ
と、すぐにザックを担いで逃げ出したが、右腕の内側、そして何故か右の胸をやられて
ショルダーが当たって痛い

アブから逃げおおせたと思った頃には、他の被害箇所も痛痒くなり、また休憩
一番酷い、熱を帯びて腫れてる胸のところ、水を浸した手拭いでゴシゴシこすってると
ぶんぶんと大きな羽音とともに単独のアブ出現
このヤローめっ!と、岩の上に置いてた帽子ではたくと、カシャんと音がした・・・?
やってしまった、帽子の上に置いてたメガネが吹き飛んで岩に当たり破損
あぁ、剱岳、これも試練?試練なのか?


予備のメガネはフレームがあるため、汗がたまり不快感は最高潮
おまけに無駄なバストアップで右胸は痛むし、いつの間にかトレイルは階段状な石なんて失せて
岩を掴んだり、灌木に頼ったりで、荒れぎみとなる、暑さとストレスで精神的にヤバさのピークとなった頃
やっとこさ樹林から抜け出すと、目の前に小屋があった

受付を済ませ、テントを張ると缶ビールだ
ガスガスで、なーんにも見えないテン場だけど、とりあえず着いたのだ
プシュッ、グビグビっ、ぷっふわぁーっ
と、至福の一口を飲ったあと置いた缶は、何故かテント内ですってんころりん
どっしゃー!これまた試練か?これが試練なのか?
ったく、もうぅ、半分以上こぼしたじゃないかオレめっ!これ、シュラフが濡れてたら最悪だぞ?
良かったよなぁ、そんな事態にならなくって、、、ってか、シュラフ無いし

、、、シュラフがない?うそっ???
ってかシュラフだぞ?ペグとか細引きじゃないぞ?シュラフ忘れるなんてあり得な・・・
し、試練?試練なのか?

陽が傾き始めたころ、ガスが少しずつ薄れ、剱が見え始めた
小屋前のちょっとした丘が展望地になっていて、テン場の人たちが集まっては、にぎやかに山座同定
シュラフを忘れるなんて大失態も忘れ去り、ガスの合い間に浮かび上がる稜線を飽きずに眺めていた

レインスーツを着込んで、何故かザックの底に入っていたソロタープ(220gで掌に収まるスグレモノ)
を纏い寝込む、結構、イケてるぞ?なんて思ってたが、やはり深夜からは冷え込んで寝不足なまま
3時半からゴソゴソと準備、4時20分に歩き始めた

テン場からすぐに樹林帯となり、いきなりの急登だ、それでも朝の冷気は心地よく
いくらでも歩けそうな気がする
歩き始めて30分、東の方向が明るくなり、うっすらと山影が見え始める
白馬だ
いいぞ、今日は午前中勝負、少しでも早く歩いて、1年ぶりの北アルプスを体感しよう


前を行くのは男女5名、年齢層はバラバラなパーティ、も少しペースを上げて欲しいけど
カメラ片手に花を愛でる余裕もあって、これはこれでいいか

これが獅子岩だろう、岩稜を詰めて行くと鎖場が現れ出す
このルートは北西、朝陽が当たらないためか、鎖の冷たさは指先が凍えそうになるほどだ



もちろん、掴んだ岩肌も冷え切っている、その冷たさが緊張感を高めて行く
その鋭鋒は見えるが、まだ剱のピークは遠い


あぁ
なんて、なんて薬師は美しいのだろう
こんな場所で眺める遠景なのに、そこだけ輝いているかのように、すっと視線を導く
そんな優美な姿、でも私は知っている、あの美しき山にも、怖いほど険しき姿もあるのだ


全身を使って登り詰めているはずなのに、その全身が冷え切っている
カラダが、早く朝陽を浴びたいと言っている
最後の岩稜、カニのハサミを超える

着いた
また来たよ剱岳

すでに別山尾根からの登山者で溢れかえっているピークはサクッとスルーする
あのギザギザに会いに行こう

八峰だ

熊岩にベースキャンプが張ってあるのが見える
今日もクライマーたちは、あのギザギザに憑りつかれているいるのだろう


昨年の夏の冒険
あの日の緊張感が、しんしんと蘇る長次郎谷の雪渓


後立山の姿を背に、さぁ下ろう
こんなに賑やか過ぎる山頂、長居は無用だ

別山尾根との分岐では既に登りと下りがぶつかってラッシュの様相
こりゃたいへんだな
剱岳人気はいつまで続くのだろうか・・・
でも、もう当分このピークを踏むことは無いだろうな
三方向から登り詰めた満足感に浸りながらも、少し寂しくも

テン場まで下山するころには、暑さもピーク
この夏の暑さはいったい何だ!?
そのままダウンしそうになるが、撤収作業に入り、簡単な食事
この私が、この状況で缶ビアを飲まないほど、すでにバテていた


そして、本当の試練が始まる

下山開始から、ほんの20分ほどだったろうか
暑さで気分が悪くなり、吐いてしまった
それでも水分だけは採らなくてはと、水を飲むがそれも吐き出してしまう

なんだこれ
そのうち、指先が震えるようになり、膝が踏ん張れなくなった
下山のトレイル前半は、苔むした小さな岩の連続だ
何度も滑ってはコケてしまう
水分は吐くのが怖くて、ひとくちずつの補給とするが
それでも吐く

やっとたどり着いた登山口では、そのまま倒れこんでしまい
後続の方が心配して声をかけてくれるが返事も出来なくて
その方は親切にも、冷たい水を持って来てくれて頭にかけてくれた

どうもありがとう、もう大丈夫です

やっと、それが言えたとき
その文字が目に入った



あぁ

舐めてたのかな、、、山を

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1年ぶりのテン泊装備、この暑さの今シーズン初のアルプス
そんな状況で相手にする山じゃなかったよな
剱岳だぞ
早月尾根だぞ
舐めてどうするんだ、オレのバカヤローめ

汗と、見知らぬ登山者がかけてくれた水でずぶ濡れの頭を垂れ、膝をつき、碑を仰ぎ
何度も、その言葉を口の中でつぶやきながら
ほろ苦い山行は終わった

試練と憧れ

コメント

コメント一覧 (6件)

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    あれ~石碑の写真ないやん、と思ってたらラストシーンやったんですね。さすが読ませますねえ。さぞツラかったことでしょう。無事の下山なによりです。 0

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    真似は出来ませんが、心そそる山行き素晴らしいです!
    まぁしかし相変わらずの行動力に脱帽ですわ。
    いっぽ間違えばと思うと・・気を付けて下さいね! 0

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    dahanさん
    今回ばかしは、ヤバかったです
    こんなに暑さに弱くなったらナツヤマなんて喜んでられないと
    そう思うと情けなくてねー、、、。カラダ鍛えますね 0

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    たかっさん
    いえいえ、行動力なんて言うほどのモノはありません
    高齢の方も平気で歩かれてるルートですからね
    たかっさんも小屋泊まりだと全然OKでしょ
    別山尾根からのルートよりも危険度は低いと感じます
    何より人が少ないのがいいですね
    ありがとうです 0

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    スロトレさん

    ご無沙汰してますm(_ _)m
    bp-hiroです!

    単身赴任でも頑張って入山してますね(^-^)
    新しいBlogしっかり読ませてもらいました。

    僕も漸く仕事の調整が出来るように落着いてきたので、少しづつ山に復活してます。
    劔は僕の一番好きな山なんで、ここからコメントさせてもらいます。
    トップのテントの写真は僕が好んで幕営する早月小屋の少しくだった小さい丘の上ですね^o^

    僕も9月に約2年間のブランクから復活して、まだ脚力も全然戻ってないのに、このルートから登って、恒例のえれぇこったウェザーも合間ってえらいしんどい思いをしましたよ>_<
    でも、やっぱり山が好きなんですね!
    まずは近場の大峰、台高辺りを脚力復活の為に時間が取れたら登ろうと思ってます。
    又、関西に帰省の時はお知らせ下さい。
    時間が合えば是非又ご一緒したいですね(^o^)
    Blogもボチボチ復活してますんで覗きに来て下さいね! 0

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    bp-hiroさん

    あー、見つかったっw
    こちらこそごぶさたしています
    そうそうう、あの夏の日、早月尾根を登りながら
    hiroさんはここを雪のある時にソロで歩いてたよなぁ
    なんて思い出してましたよ^^
    また一緒に大峰ハイクしたいですね
    hiroさんのブログにもおじゃましますね! 0

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