
取付きから急登だ
こんなに急登だったっけ?
いや夏道とは違うのは分かってる、でも?
見上げる先行者の姿、そして見下ろしてくるような岩稜
その角度と迫力に、すでに焦り始めている自分がいる
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
見上げないようにしよう、ふり返らないようにしよう
淡々と、そして着実に同じ動作、同じリズムで繰り返し進むのだ
と自分に言い聞かせるが、そりゃ振り向くよ
いつの間にかカールのテン場があんなに小さくなっている
そして蒼白き峰々が、背中を押してくれている
ありがとう穂高
張り詰めた心と全身の筋肉
目の前の最後の急登に負けそうだ
なんて長いんだ
なんて角度なんだ
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
ふと横を見ると南陵の巨岩
夏道もこんな岩をハシゴで登ってたんだ
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
そして、やっとテラスへ乗っかると
岩場をトラバースして、最後の詰め
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
長かった、キツかった、厳しかった
緊張の糸が切れて、どんな顔していいのやら
北峰ピークは風も強く、早々に山荘の方へ下ると、そこは人だかり
みなさん、ここまでの道のりを称え会い、そして大展望に酔っている様子
すべての岳人たち、その憧れの象徴である槍ヶ岳
その槍へと向かう岳人たちの行く手を阻む大キレット
鳥も飛ばない滝谷、バックに笠ヶ岳
北アルプスのすべてを見渡せる至福の時間
飽きることなく90分も過ごした北穂テラスを後にする
さぁ、この下山こそが核心部だ
と、ピークから下るその先を見ると、松濤岩にトレース
そのトレースを見ただけで、何故だか震えてきそう
そしてアクシデントは起きた
15分ほど下ったところだろうか
ピッケルを刺す、軸足を蹴って確保する、左脚を降ろす、ピッケルを刺す
その間合い、リズムに慣れ始め、あぁこのカンジだなとペースを掴んだ矢先のこと
なだれー
その声は後続のパーティの会話の一部かと思った、それほど長閑な声だった
が、後ろを振り返ると南陵の裾から雪崩れている

え?なだれって、雪崩なんだ?マジか!?
どうする?こんなときどうする?
先ず下に向かって大声を出した、なだれー!
雪崩から逆横方向へトラバース、ピッケルを強く刺してビレイ
下の登山者に声は届いていない、もっと大声だ、なだれー!、なだれー!
南陵を攻めているパーティのものだろう怒声、ホイッスルが大きく鳴る
それは北穂沢に鳴り響いて、谷全体が緊迫感に包まれる
下方の登山者たちも慌てて左へと動いている、大丈夫か?どうだ?
デブリはゆっくりと幅を広げて進み、やがて南陵に沿って右手に流れながら止まった


ピッケルを刺す、軸足を蹴って確保する、左脚を降ろす、ピッケルを刺す
右手を山側にした半身での動作が続く
もうテン場まですぐそこに見えてまだまだ長く、右の大腿筋は今にも攣りそう
やがて右脚のふんばりが効かなくなった頃、そこはもう涸沢小屋のすぐ上だった
終わった
無事に下山できた
ちょうど奥穂から降って来た若いソロのお兄さんと会話する
彼によるとあずき沢でも雪崩があり、膝下辺りの雪に流されかけた人を見たそうだ
お互いの無事を笑い会って、写真を撮りあった
さぁ生ビールを買ってテラスで独り打ち上げだ
独り呑みの相棒はiphone
ライブラリからアクセスするのは2009年のデータ
あの夏、奥穂高から槍へ縦走中の自分へ語りかける
あれから10年以上も時間が経ったけれど、こうして雪の北穂へ立つことが出来たぞ
乾杯!























コメント
コメント一覧 (4件)
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北穂山頂からの眺め、大好きです! 残雪期の眺めも素晴らしいですね~! 1時間半も佇んじゃうのも頷けます。
私には残雪期登る勇気もスキルも無いので諦めてますが、おかげさまで楽しめました。
でも、涸沢までなら(涸沢の眺めも素晴らしいんで・・・)何とかなるかな~なんて妄想を抱くようにもなりました (^^;)
下山のアクシデント、巻き込まれなくて何よりでした。レポ読んでる私でさえ手に汗握っちゃいましたよ。
これからも安全に登山を楽しみましょうね~ (^^)/ 1
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うわーこれはすごい。
大きい画像で見せてもらうと迫力伝わってきますね!
涸沢って大きすぎるせいか?遠目で見るとそれほどでもない気がしちゃうんですが、
真下に行くといきなり壁が立ちはだかる感じがします。
冬はあそこを登っていくんだー、まさに壁じゃん、と思いながら拝見しました。
平蔵谷でしたっけ?を登ったのスロさんだから登れるんですよね、気力と技術が素晴らしいです。
アクシデントに巻き込まれなくてよかったですね、
この時期の雪崩は想像できますが、人に巻き込まれるのはあまり考えたことなかったです。
人が多くても少なくても、やっぱりいつも隣り合わせなんだなぁと身が引き締まる思いで読みました。
でも今回のGWは天気に恵まれて山岳事故も少なかったとか。
下山後のビールはさぞかし美味しかったことでしょう。
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GRIさん
ほんと北穂からの眺め最高ですね、特に槍ヶ岳への縦走路、大キレットとの
俯瞰は、奇跡的な構図としか思えません、私も画像のタイムスタンプで
90分も居たのか!と我ながら笑いました^^
アクシデントは夏山でも里山でもその契機はどこにでもあるのですが
やはり雪山はリスク高すぎますね、いろいろ考えさせられました
はい、安全第一で楽しみます^^ 1
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cyu2さん
しっかり迫力伝わったようで嬉しいです、奥穂登るレベルの人だと
北穂くらいで何をおおげさな、と思われるでしょうけど私には立派な雪壁でした。
おしいっ!長次郎谷でした^^あれは勢いだけで行きましたからねー。
そうなんですよ、デブリはその辺りに何か所もあるので
小さな雪崩はあるだろうと想像してましたが、人が落ちて来るとか
人に衝突するとか、ちょっとノーガード過ぎてほんと怖かったです。
下山後の生ビール?えぇもう心にまで沁みました(^^) 1