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五月の穂高へ 雪壁



■山行日:2022年05月03日ー05日
■山:北穂高
■目的:残雪北アルプス
■ルート: 上高地(06:00)ー涸沢(12:15)
     ★涸沢(06:30)ー北穂高(09:00ー10:30)ー涸沢(12:50)
      涸沢(04:45)ー上高地(10:00)



さぁ、いよいよだ
昨日からテラスでずっと睨んでいたルート
北穂高への雪の壁へ、いよいよ進むのだ
涸沢小屋に向かってテン場を進むと武者震い
今さら怖気づくなよ、と自分に気合を入れる

取付きから急登だ
こんなに急登だったっけ?
いや夏道とは違うのは分かってる、でも?
見上げる先行者の姿、そして見下ろしてくるような岩稜
その角度と迫力に、すでに焦り始めている自分がいる
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
見上げないようにしよう、ふり返らないようにしよう
淡々と、そして着実に同じ動作、同じリズムで繰り返し進むのだ
と自分に言い聞かせるが、そりゃ振り向くよ
いつの間にかカールのテン場があんなに小さくなっている
そして蒼白き峰々が、背中を押してくれている
ありがとう穂高
張り詰めた心と全身の筋肉
目の前の最後の急登に負けそうだ
なんて長いんだ
なんて角度なんだ
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
ふと横を見ると南陵の巨岩
夏道もこんな岩をハシゴで登ってたんだ
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す
そして、やっとテラスへ乗っかると
岩場をトラバースして、最後の詰め
ピッケルを刺す、軸足を蹴る、左足を運ぶ、ピッケルを刺す

長かった、キツかった、厳しかった
緊張の糸が切れて、どんな顔していいのやら
北峰ピークは風も強く、早々に山荘の方へ下ると、そこは人だかり
みなさん、ここまでの道のりを称え会い、そして大展望に酔っている様子
すべての岳人たち、その憧れの象徴である槍ヶ岳
その槍へと向かう岳人たちの行く手を阻む大キレット
鳥も飛ばない滝谷、バックに笠ヶ岳


槍の向こう、赤牛、水晶、鷲羽と愛する奥黒部の主峰たちが並ぶ



山座同定に盛り上がる岳人たち、みなさん嬉しそうだ


北アルプスのすべてを見渡せる至福の時間
飽きることなく90分も過ごした北穂テラスを後にする
さぁ、この下山こそが核心部だ
と、ピークから下るその先を見ると、松濤岩にトレース
そのトレースを見ただけで、何故だか震えてきそう
そしてアクシデントは起きた
15分ほど下ったところだろうか
ピッケルを刺す、軸足を蹴って確保する、左脚を降ろす、ピッケルを刺す
その間合い、リズムに慣れ始め、あぁこのカンジだなとペースを掴んだ矢先のこと
なだれー
その声は後続のパーティの会話の一部かと思った、それほど長閑な声だった
が、後ろを振り返ると南陵の裾から雪崩れている
え?なだれって、雪崩なんだ?マジか!?
どうする?こんなときどうする?
先ず下に向かって大声を出した、なだれー!
雪崩から逆横方向へトラバース、ピッケルを強く刺してビレイ
下の登山者に声は届いていない、もっと大声だ、なだれー!、なだれー!
南陵を攻めているパーティのものだろう怒声、ホイッスルが大きく鳴る
それは北穂沢に鳴り響いて、谷全体が緊迫感に包まれる
下方の登山者たちも慌てて左へと動いている、大丈夫か?どうだ?
デブリはゆっくりと幅を広げて進み、やがて南陵に沿って右手に流れながら止まった


静寂と緊迫感
すべての動きが止まった数分間
きっとこの程度の小規模雪崩は、残雪期では日常的なものだろう
それでも我ら登山者に改めてこの登攀が決して大げさでなく
命がけであることを知らしめるには充分な数分間だった

その先はもちろん今まで以上に慎重になり背後の気配にも敏感になっていた
北穂沢の静寂も収まり、また同じ動作、同じリズムを繰り返すピッケルの音だけ
そこへ何か近付く気配を感じて振り返る、ソロ男性が急スピードで降りて来る
ん?この男ピッケル使ってないぞ?なんだこの降り方?




危険を察知し、トレースを外してその男に譲るとあっと言う間に真横を降って行く
と、案の定その男はデブリに躓いたようで頭から大きく一回転して落ちた
それはゆっくりと、すぐにでも止まれるように見えながらも、二回転三回転と
くり返しながら落ちて行き、五度目の回転くらいだったろうか
不幸にも一人の女性に追突し、もつれあった状態で数メートル落ちてようやく停止した

立ち上がった男は何かを探している様子、アイゼンだ
スローモーションのように見えても、あれだけ転倒するとアイゼンも外れるんだ
ショックを受けて立ち上がれない女性を見ていると先ほどの雪崩よりも怖くなり
自分の膝が震えているのが分かる
そこからは、ただただ自分が同じように加害者にならないよう
雪崩の後以上に、しっかりと、着実に軸足で確保しながら降って行った


ピッケルを刺す、軸足を蹴って確保する、左脚を降ろす、ピッケルを刺す
右手を山側にした半身での動作が続く
もうテン場まですぐそこに見えてまだまだ長く、右の大腿筋は今にも攣りそう
やがて右脚のふんばりが効かなくなった頃、そこはもう涸沢小屋のすぐ上だった
終わった
無事に下山できた
ちょうど奥穂から降って来た若いソロのお兄さんと会話する
彼によるとあずき沢でも雪崩があり、膝下辺りの雪に流されかけた人を見たそうだ
お互いの無事を笑い会って、写真を撮りあった
さぁ生ビールを買ってテラスで独り打ち上げだ
独り呑みの相棒はiphone
ライブラリからアクセスするのは2009年のデータ
あの夏、奥穂高から槍へ縦走中の自分へ語りかける
あれから10年以上も時間が経ったけれど、こうして雪の北穂へ立つことが出来たぞ
乾杯!

コメント

コメント一覧 (4件)

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    北穂山頂からの眺め、大好きです! 残雪期の眺めも素晴らしいですね~! 1時間半も佇んじゃうのも頷けます。
    私には残雪期登る勇気もスキルも無いので諦めてますが、おかげさまで楽しめました。
    でも、涸沢までなら(涸沢の眺めも素晴らしいんで・・・)何とかなるかな~なんて妄想を抱くようにもなりました (^^;)
    下山のアクシデント、巻き込まれなくて何よりでした。レポ読んでる私でさえ手に汗握っちゃいましたよ。
    これからも安全に登山を楽しみましょうね~ (^^)/ 1

  • SECRET: 0
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    うわーこれはすごい。
    大きい画像で見せてもらうと迫力伝わってきますね!
    涸沢って大きすぎるせいか?遠目で見るとそれほどでもない気がしちゃうんですが、
    真下に行くといきなり壁が立ちはだかる感じがします。
    冬はあそこを登っていくんだー、まさに壁じゃん、と思いながら拝見しました。
    平蔵谷でしたっけ?を登ったのスロさんだから登れるんですよね、気力と技術が素晴らしいです。

    アクシデントに巻き込まれなくてよかったですね、
    この時期の雪崩は想像できますが、人に巻き込まれるのはあまり考えたことなかったです。
    人が多くても少なくても、やっぱりいつも隣り合わせなんだなぁと身が引き締まる思いで読みました。
    でも今回のGWは天気に恵まれて山岳事故も少なかったとか。
    下山後のビールはさぞかし美味しかったことでしょう。
    1

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    GRIさん

    ほんと北穂からの眺め最高ですね、特に槍ヶ岳への縦走路、大キレットとの
    俯瞰は、奇跡的な構図としか思えません、私も画像のタイムスタンプで
    90分も居たのか!と我ながら笑いました^^
    アクシデントは夏山でも里山でもその契機はどこにでもあるのですが
    やはり雪山はリスク高すぎますね、いろいろ考えさせられました
    はい、安全第一で楽しみます^^ 1

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    cyu2さん

    しっかり迫力伝わったようで嬉しいです、奥穂登るレベルの人だと
    北穂くらいで何をおおげさな、と思われるでしょうけど私には立派な雪壁でした。
    おしいっ!長次郎谷でした^^あれは勢いだけで行きましたからねー。
    そうなんですよ、デブリはその辺りに何か所もあるので
    小さな雪崩はあるだろうと想像してましたが、人が落ちて来るとか
    人に衝突するとか、ちょっとノーガード過ぎてほんと怖かったです。
    下山後の生ビール?えぇもう心にまで沁みました(^^) 1

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