朝からハイテンションで舞い上がっていた
穂高エリアで始めてのバリエーションだ、ソロで目的地まで歩いたのだ
そんな達成感に浸りながら夜明けを待つと、昨夜からの雨は上がり
そして、東の空はどんどん碧くなって行く、そんな朝だ
舞い上がっても仕方ないよな、と自分でも思ってた

そこは、誰が名付けたのか黄金平
本谷の右俣を最後まで詰めたところ、南岳直下のカールだ
2008年、紅葉の涸沢からの帰り、上高地からのバスで隣り合わせたカップルの
本谷右俣、あんなに素晴らしい紅葉は北アルプスでも他には無いでしょう
その言葉、バスの中でも興奮冷めやらぬ二人の感動が伝わり
いつしか頭に刻みこまれていた場所に、やっと立つことが出来たのだ

その舞い上がりからだろうか、テン泊地からダケカンバの群生を避けている間に
少しずつ方向を誤っていたようで、朝のガスが晴れ渡る頃気付いたときには
横尾尾根に直登するようなルートをとっていた
ま、このまま尾根に登りきってもどうにかなるだろ
なんて、今思うととんでもない判断で、ずんずん進むが
登り詰めるにつれ、下に向かって威嚇するように尖るハイマツ
そして硬いダケカンバの群れが邪魔をする
でも、もう下るにも大変な位置にいる、無理矢理突っ込むか
と、ハイマツと格闘しながらも、どうにか尾根に這い上がる
そして、天狗原の分岐方向を望むが、その岩稜、とてもじゃないけど進めない
やってしまった、一年前の黒部と同じことしてるぞ
10分ほど岩の上で休憩、そして意を決してダケカンバを手に下る
下るといっても、ほとんどモンキークライム
ハイマツを踏み、ダケカンバの幹に捕まり、ずるずると下る
このまま下りきるより、尾根の中腹をトラバースぎみに行く方が効率的だよな
と、トラバースを始めたが、ハイマツが途切れたかと思うと突然山ヌケだ
どーん、とヌケ落ちた斜面は歩ける角度では無い、頼るものも何もない
進めない、下れない、戻る?どうする?どんどん時間と体力がロス

はぁーぁ、オレこんなところで何してんだかなぁ
北穂の向こうに前穂、東を見下ろすと屏風岩
ロケーションは最高、空は紺碧
なのに・・・何してんだかなぁ
なんだか、夢中で泳いでるうちに足の届かない沖に流されてて
振り向いても岸辺は高波で見えなくなってる
そんな心細さに、今さらだけどソロの寂しさを覚える
半ば放心状態、行動食も喉を通らず、水を流し込むだけ
さ、行くぞ、覚悟を決めてヌケた箇所を高巻きして行く
再び尾根に上がると、その鞍部には錆付いたアイゼンが落ちていた
あぁ、この尾根って冬季の槍ヶ岳行に使われてたっけ・・・
このアイゼンの人、どうしたんだろうなぁ、と一瞬寒気が襲う
ぶるぶるっ
気を取り直すと、アイゼンを遠巻きにしながら、ダメ元で岩稜を登り詰めて行く
案の定、その先はキレ立っていて、ザイルでもなければどうにもならない
こ、こんなにノコギリ状だったのか・・・
泣きそうになりながら鞍部に戻ると、さっきのアイゼンを踏みつけそうになり
たたらを踏んで、転倒してしまう・・・
そんなムチャなことを繰り返しながらも少しずつ進んでいて
どうにか4時間半後には天狗原分岐に立っていた
よ、じ、か、ん、は、ん、、、?

90分の予定だったのだ、それもサクッと登り詰める予定だったのだ
ま、もうどうでもいいや、とりあえずリカバリーできたんだ、岸に戻れたんだ
と、ほっとしたのもあってか、フラットな岩の上に転がると
ガブ飲みした水を全部吐き出してしまう、緊張の連続で胃が痙攣しているようだ
まいったよなぁ、もう疲れきったよなぁ、槍まで行けるかなぁ
なんて独り言をつぶやきながら、胃の辺りを撫でてるうちに
いつの間にか気を失うように眠っていた
30分ほど寝込んだ後、結局は当初の目的であった朝陽に燃える天狗池の紅葉を眺めながら槍を目指す
なんてプランは夢と消え・・・
殺生ヒュッテまで辿り着いたときにはもうテントを張る気力もなく
小屋で素泊まり、なんて情けない結末だ
でも
タケカンバに捕まりながら仰ぎ見た空
あの紺碧の空は忘れられない
それが、登山暦6年目の自称ヤマオトコ
2011年秋の物語だった
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