北ノ俣岳に決めた理由はシンプルだ
自分の一番好きな山域である黒部、その晩秋の姿を見渡したいからだ
そしてもう一つ、2018年の台風21号の影響により60本もの倒木で
壊滅的な状態になったとされる飛越新道が修復されたとの事で
その様子を確認したいとの思いだった
深夜の飛越トンネル登山口には、先客が2台のみで、やはりこの時期
ここから登るロングルートを歩く人は少なく、静かな山を楽しめそうだ
5時半には歩きはじめたかったが、寒さと睡眠不足でノロノロしてしまう
まだ薄暗いトレイルを歩き始め、トンネル真上辺りを越えたところ
樹林の合間から北東に鋭角のシルエットが現れた、こんな処から剱岳が見えるんだ
凍てついたトレイルを音を立てて詰めて行く
徐々に朝陽が空を明るくし始め、有峰湖に雲海が広がる
きっと湖畔は例によって朝霞狙いのカメラマンたちで賑わっているだろう
60分で神岡新道出合
あぁ、もう北ノ俣への稜線が見えるぞ
しかも思った通り、薄っすらと雪が着いている
寺地山までは見えないものと思い込んでいたので
突然現れた姿に感動する
なるほど、大きな倒木は、迂回出来るよう道を作ってあったり
チェーンソーでカットしてあったりで、安全に歩けるように修復されている
はっきり言ってこのルート、登山者の数はそう多くないはずだ
それでも、笹を刈り取り、倒木を切ってまで整備されている方々に感謝
普段であれば、ぬかるみが続くトレイルも
このところ雨が少なく、乾燥していて歩き易い
鏡池辺りでは、足元の霜柱も融け始め、ふと開けた視界に乗鞍の姿
風も無く、意外と暖かなトレイルで汗をかき
2時間30分で寺地山だ、この山頂には展望は無いが
少し先へ進んだところから、北ノ俣のピークが見える
いや、分かってはいたけれど、遠いぞ北ノ俣
寺地山からは森林限界を超えて、一気に視界が拡がる
薬師岳はすでに雪山の様子
その裾の向こうには、剱岳の頭が覗く
素晴らしい展望に心躍るが、北の空からは雲が流れ始めている
この感じだと、稜線に出ても黒部は見渡せないか
寺地山からは下り、そして登り返し
このルートは小刻みなアップダウンが連続し、やや疲れるが
この大きな北ノ俣を正面に見据えて歩けるのだ
黒部を見渡すこと、飛越新道の回復を確認すること
実はも一つの目的もあった、それは北ノ俣避難小屋だ
2014年、初めてこのルートを歩いた日この小さな小屋でひとり一晩過ごしたのだ
古いながらも整備され、壁掛け時計がある室内をどこか懐かしい空気が漂い
この小屋と飛越新道とが地元、神岡の方にどれだけ愛されているかが伝わる
居心地の良い小屋だった
その小屋が、長年雪に埋もれて進んだ老朽化によって
今や傾き、危険な状況なため利用禁止だとネットで知り
どうしても自分でその姿を見たかったのだが
いざ、こうして目の当たりにすると寂しいものだ
もう誰も使わない小屋
その傾いた足元には沢から引かれた水が流れる音だけ響いていた
避難小屋でしばし感傷に浸ると
さぁ、ここからが最後の詰めだ、木道は荒れ果て
トレイルも深く掘れて歩きにくく
ただ延々と稜線まで続くのだ
ハイマツ帯に入ると足元に雪が残り始め
気付いたら、足首オーバーとなっていた
大丈夫、今日はザックにチェーンスパイクが入ってるぞ
稜線まであと少し、雪をまとったハイマツが行く手を邪魔する
意味もなく焦っては、足を滑らせながら進む
やっとたどり着いた稜線の空は、残念ながらどんより
ま、いいさ
正面には赤牛から水晶の稜線
振り向けば薬師と剱岳
その展望に見とれてると、一瞬で汗が退き、冷たい風に体が凍て付く
あわててハイマツの陰でレインスーツを重ね着してピークへ向かう
ここで初めて一組の登山者に出会った
折立からやって来て、昨晩は太郎でテン泊だったそうだ
もう小屋締めされた後、ここまで来るとは相当な山好きだろう
自分は飛越新道から来たと伝えると、こんな時期にひとりで?と妙に感心された
その彼らが去ると広い稜線にたった一人
ピークから望む水晶岳、その裾野には、頭がすっかり白くなった雲ノ平
そして読売新道の稜線、その先は
赤牛岳、その奥には針ノ木岳
想像したピーカンの北アルプス大展望とはならなかったが
これだけの景色を独り占めな幸せに浸る
さぁもう帰ろう
もう充分じゃないか
不思議なもので、稜線から西へ向かうと青空だ
柔らかな光に包まれて、晩秋の静かな山が輝いてゆく
乗鞍と、朝は見えなかった御嶽が雲に浮かぶ姿
そして北ノ俣の稜線に別れを告げる
静かな静かなトレイル
アップダウンとぬかるみを敬遠する人も居るけれど
人知れずひっそりと残っているクラッシックルート
そんな趣に惹かれる飛越新道
いつまでも整備され続けて欲しいと願いながら下山した
下山して数週間後、画像を整理しながら偶然にネットで見つけた記事に
あの避難小屋を修復しようとする動きがあると知った








































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