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祈りの道ふたたび 大峯奥駈道・釈迦ヶ岳



■山行日:2023年05月03日
■山:大峰(釈迦ヶ岳)
■目的:奥駈道(北部)縦走
■ルート:仏生嶽(04:40)-釈迦ヶ岳(06:50)-小仲坊(10:00)-前鬼口(12:30)



夜明け前、まだ薄暗い中テント撤収を始めると
早くも楊枝ノ森を発った縦走者たちが歩き始めている
熊野まで歩きとおす者たちにとっては、まだまだここは通過点
この先も長い長い行程、一歩でも先へと逸る気持ちは痛いほどわかる

彼らとは違って今日は下山だ、ゆっくりと最後の奥駈道を進み

水場である「鳥の水」で補給をしていると後続のハイカーが目に入り
その姿はどこかで見たことがあるような気がした



孔雀岳に立つと夜は明け、薄ぼんやりとした朝焼け
大台ヶ原方向も朝靄に霞みながらも幾重にも連なる山並みが美しい
そこに後ろから先ほどのハイカーが追いついて来た
それは気になっていた山上ヶ岳で体調不良だと嘆いていたUL青年だった
彼に体調を聞くと、もうどうしようもない状態でエスケープを考えているとのこと
そうなんだ、そりゃ無理したってこの先は長いし、残念だけど諦めた方が良いよ
と、釈迦ヶ岳から前鬼口へのエスケープ、そこからのバスの時間など教えてあげる
でもバスって15時19分まで無いし、オレ車置いてるから
バス停のある温泉まで乗っけってあげるよ?
そう誘うも青年は力が抜けきった様相
きっと同じペースで下山できないのでと、断ると黙り込んでしまう
体調もメンタルも相当やられてる様子に、これ以上はおせっかいが過ぎると思い
この先は、釈迦ヶ岳を正面に歩く美しい稜線だから、と元気付けると歩き出した
自分で言っておきながら、この稜線は本当に美しいなと
朝陽に照らされる笹の稜線に惚れ惚れしながら、ゆっくりと歩く
やがて奥駈道は西側が切り立った岩稜に変わると
蔵王権現像が祀られた橡ノ鼻を過ぎ、岩場が切れた両部分けだ
これまでが金剛界、この先が胎臓界となる修験道的には大きなポイントとなる
やはりこの道は謎めいた異世界だ
そのポイントを過ぎたところ、大峰の花として有名な
オオミネコザクラが咲いていた
もう色褪せ始めてはいたが、岩影に隠れてひっそりと揺れる姿は美しい
この花を愛し、毎年のようにここに訪れていた山仲間たち
みなさん、今はどうしているのだろう
いつしか音信不通となった仲間たちへ
今も変わらずオオミネコザクラはここに咲いてるよ
その花の咲くポイントからは空鉢岳の鋭鋒を巻くため
大きく下らなければならない、その鞍部から見上げる釈迦ヶ岳は
ついさきほどまで近付いていたのに、また離れてしまった気がする
そこからは鎖を頼りに汗だく、そしてナイフリッジ状の馬の背を超え
やっと登り詰めた先に、お釈迦様が笑顔で迎えてくれる
「よぅお参り」
厳しさと美しさ
これこそが奥駈道だ

五月の風に吹かれながら、ここまでの縦走路を振り返っていると
UL青年も追いついて「めっちゃ厳しい登りですね」と息も絶え絶え
お釈迦さまを見上げると彼はぽつんと言った
「ほんと悔しいです、もう当分来れないんです、、、」
どうやら仕事が変わるタイミングに併せて今しかチャンスは無いと一念発起
いろんな想いを込めた奥駈だったそうだ
悔しさを滲ませた表情で、長い間お釈迦様に頭を下げる青年
その姿にいつかの自分を想い出し、少し胸が熱くなった
ひとそれぞれの祈りがあり、人それぞれの奥駈縦走がある
そんなシーンをしみじみと過ごしていると、同年輩のソロ男性が汗だくで登って来た
関東から来られた彼は、この先を平治ノ宿か行仙ノ宿までか迷っている
「この時間なら頑張って行仙ノ宿まで行けますよ、たぶん缶ビールも売ってます」
と伝えると缶ビールの一言に「じゃ行きますよ行仙ノ宿」と笑う
その彼は続けて独り言のように言った
何が何でもあと二日で熊野まで歩きますよ「よみがえり」です
そうなんだ、また彼もそれを目指しているんだ
ふらふらなUL青年と、もう北部縦走を終えようとする名残惜しさで
ゆっくりと歩く自分、ついては離れ奥駈道を南下する
そして神仙ノ宿まで降りてくると、ここででしばらく休憩すると言うUL青年
「いつかこの大峰で会おう」と笑顔で別れた
また一人に戻ると太古ノ辻へとぼとぼと
最後に「これより大峯南奥駈道」との標識
その向こうにまだまだ連なる峰々に別れをすると
最後の登山道を前鬼へと下る
しんっと静まり返ったいにしえの道に木漏れ陽が落ちる
ここは何度歩いても特別な空気が漂っている気がする
明治の頃までは五つの宿坊がありその跡が石垣として今も残る
奥駈道からは離れてはいるが修験道と密接な関係にある道だ
ただひとつ残った宿坊である小仲坊では
今日から本格的に修験者たちが集まるのに備え布団干しがされていてる
その静けさの中、大きな笑い声と朗々とした話し声が響く
あぁ五鬼助さんの声だ、あいかわらずお元気そうだ
この小仲坊の第六十一代当主を務められる「鬼の末裔」のお一人
何度かお話を聞かせて頂いたが、張りの有る声と笑顔が素敵な当主
今日は来客の方と歓談中のようなので、頭だけ下げて通り過ぎた
小仲坊から国道169までの20キロ
それが今回の北奥駈道縦走の厳しいエンディング
もう汗なんて一滴すら出ないぞ、そう思っていたが
風の通らない林道のなんと暑いことか
汗びっしょりになりながら13年ぶりの奥駈道縦走を振り返る
修験道はいつしか女性、それもソロのハイカーが増え
流行りのガレージブランドを揃えたULスタイルやランナーたちまでもが
熊野を目指している姿に、大きな時代の流れを感じることとなった
それでも
千三百年もの歴史ある修験道は今もなお厳しく美しく
そして謎に包まれた素晴らしき道だった
「よみがえり」の地、熊野を目指した者たちが
どうか再び生きる力を身に付けることができますように

コメント

コメント一覧 (2件)

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    訪ねたことなどない場所なのになぜか郷愁を誘う美しい写真、
    心のうちに湧き出る言葉でつづられた清々しい文章、
    これぞ山行記という「祈りの道ふたたび…」で
    大峯奥駈道縦走の魅力を存分に味合わせていただきました。
    ありがとう、スロさん。
    なんだか涙がでてきそうです。 2

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    palletさん

    長く極私的な記事を最後まで読んで頂いてありがとうございます^^
    世界遺産に登録された「道」は今のところスペインのサンティアゴ巡礼路と
    この大峯奥駈道の二つしかありません、どちらも古くからの信仰に深く
    根付いた道です、その情景を少しでも感じて頂けたら
    嬉しい限りです

    >なんだか涙がでてきそうです。

    泣けるようなところ無かったような気がしますが^^
    嬉しいコメントありがとうございます
    私も最近は涙腺ぼろぼろで朝ドラで泣けてます(^^; 2

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