いつもより人気の少ない新世界を横断して
独特な喧騒と猥雑な空気、それらが混じりあった街の香りを懐かしむ
この街の香り、その源となるのはやはり飲食店から漂うものだろう
立ち食いうどん、たこ焼き屋、ホルモン焼き、そして串カツ
感染予防とか関係なく、もともとどのお店もオープンな佇まい
街中に匂いが、煙が漂っているのも、ひとつの風情だ
そんな猥雑な匂いから少し離れた商店街、その中ほどに渋い暖簾が垂れる
創業百年を超えていると言われる老舗「総本家更科」だ
初めてふらっと入ったのは5年も前
その時に頂いた出汁巻きと天ぷら蕎麦が美味しすぎて
いや、味だけではない、この店の空気感みたいなものに惚れてしまった
オーダーは「いりとり」
その名の語源は不明だが、要は親子丼の台抜きだ
もちろん熱燗を添えて
オーダーした後、手洗いを借りると通路から厨房が見える
その一瞬垣間見たシーンに思わず頬が緩んでしまう
整理された厨房のガス台の前、店主さん自らが腕を組み
とっくりを付けた鍋を睨みながら火加減を看ているのだ
その姿に、なんとも言えない風情を覚えてしまう
そして出てきた「いりとり」
あぁ、なんだこの香り
むせ返るような、とは表現として正しくないだろうけど
まさにお出汁の香りで息が出来ないほど
あぁ
熱燗お代わりください
実は今回大阪へ所用が出来た際、必ずこの店に再訪しようと決めていた
それは、YouTube のあるサイトを見てしまったからだ
チャンネル名は「うどん そば 大阪 奈良」でその名の通り名店を紹介している
中でも475万再生を誇っているのがこの総本家更科だった
その動画タイトルは「究極の親子丼」この動画をもう何度見たことか
料理のおいしそうなことはもちろん、店主さんの所作ひとつひとつに現れる
手際良さ、清潔さ、誠実さ、それらが言うなれば「品格」として漂っているのだ
その動画で紹介されていた逸品、親子丼を頂くため、それが目的だった
お出汁の香りを胸いっぱいに吸い込むと一口頂く
絶妙な卵の火の通し加減、鶏肉の柔らかさ、お出汁の吸い具合
こんなにも優しい味わいの食べ物があるだろうか
親子を台抜きにしたのには訳がある
それはもう一品、どうしても食べたかったものがあるからだ
その一品とは「お肉のカレー丼」だ
関西のカレー丼は、肉と揚げの二種類がある、念のために記すが
関東のように豚肉の入ったカレー丼なんて無い、肉=牛肉だ
YouTubeの動画内で店主さんが説明されていたのは
このカレーはインド人のシェフにマサラを配合してもらい
ラード小麦粉を合わせたお店オリジナルのルーを作っているとのこと
なるほど、蕎麦屋のカレーの香りには無いスパイスを感じる
これまた優しいお出汁のカレーに
後からスパイスが追いついて来る感じが堪らない美味さ
あぁ
前回は、百年続きますように、なんて勝手なこと記したが
動画で知ったこのお店の歴史
明治42年大阪本町にて創業
明治45年に新世界創成時に現在の場所へ移転
昭和20年大阪空襲で店舗焼失
通天閣開業後二か月で新世界に今の店舗を再建
そりゃ深い味わいも出るもんだ
このお店の空気感も、この歴史を引き継いでいるからだろう
どうかこの賑やかで猥雑ながらも風情ある街で
その品格を持って次の百年を続きますように

















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