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今日の旅ごはん タワーサイド・メモリー

あれは17歳の夏だった
どうしても手に入れたいモノがあった
それは自分にとっての自由の象徴だった
我が家は、おねだりして何かを買って貰える様な家柄では無く
必然的にアルバイトすることになる
それは、ハードな電気工事会社だった
工事と言えば聞こえはマシだが、要は雑用
それも力仕事中心で毎日ヘトヘトになるまで働かされた



そんなバイト君も、2週間も経つと、いろんなコツを覚え
重宝されるようになる
で、ある日、カカリチョーだかカチョーだかに呼ばれたのだ

来週から神戸に出張行ってくれるか
 美味いモン食べさせてもらえるぞ

出張?神戸?なんだか急に仕事が出来るようになったみたい
そう勘違いしたバイト君は、ふたつ返事で、おっさんたちと
新幹線に乗り込み神戸へ行ったのだ
仕事の内容なんて、何ひとつ聞きもしないで

その出張先での仕事は、もちろん電気工事、もちろん雑用
だけど、ちょっと違うのは、なんと外国船の作業だ
港からタグボートのような船に乗り、神戸港の真ん中に浮く
ギリシャ船、それも超大型のタンカーの上での作業だった

何が哀しくて、青春真っ只中な夏休に、油まみれになって
外国船の上で汗流してるんだか、同級生は海やら恋やら
楽しんでると言うのに、とグチりながら、早朝から船に乗り
毎晩19時を回る頃、ポートタワーの夜景を眺めながら
ボートで港へ帰る毎日だった

唯一楽しみなのは、大きな食堂で外国人クルー達に紛れて
同じテーブルで一緒に頂く、ビュッフェ形式のランチタイム
レモンやハーブの味がする細長い米はパサついてたけど
ライスに添えられるチキンやサラダが美味しく
同じ釜のメシを多国籍な労働者達が一堂に会して食べる感じが
なんだか妙に楽しかった

そして一番の思い出

作業場所となるデッキにいるトルコ帽を被ったオヤジさんだ
顔を会わす度に部屋に呼ばれ、とんでもなく濃く不味いコーヒー
(後にトルコ・コーヒーと知る)を飲ませてくれては
英語交じりの不明語とジェスチャーで話す時間は楽しく
だんだんとコミュニケーションが成立して行くのは刺激的だった

正直に告白するとだ、もっと刺激的だったのは、そのオヤジさんの
部屋に飾ってあるカレンダーだった

美しき外国人女性が、プールサイドで全裸で椅子に座っている
ただそれだけの一枚、だけど全裸なのだ、何も隠されていない
本当に、正真正銘の全裸なのだ・・・

多感な少年であるバイト君は、オヤジさんとの会話を楽しみながらも
視線はチラチラと一枚のカレンダーへ奪われていた

休日ナシの連続勤務で7日間(と記憶している)出張も最終日
その日は、15時くらいで作業も終わり、例のトルコ帽オヤジさんとも
最後の不味いコーヒーを頂いてると、何故だか部屋の感じが違う

ん?分かった!カレンダーが捲られて変わってるんだ、と気付いた時
オジさんは、ニヤニヤしながら折りたたまれた紙片をくれる
そーっと広げてみると、それは、いつも盗み見してた、あのカレンダー

気付かれてたんだ、知ってたんだ、と思うと自分でも分かるほど
顔が赤くなって、それを指差し笑い転げるオヤジさん

別れの挨拶もそこそこに、カレンダーを作業服の胸ポケットに隠し
ボートで港に帰るのもドキドキするほど、まだ純な少年だった

ホテルを出る支度をしながら、高校生がこんなモノ持ってたら
ヤバいよなぁ、と思案した結果、部屋のゴミ箱に丸めて捨てたのだ

重油臭い海風、大食堂で食べるライスのレモンの香り
港のホットドッグ屋台のマスタード

もう何十年も前の記憶は、匂いとして残ってる

それから4年後、進学で出てきた大阪で、バイト先の女性に誘われて
初めての ユーミンのコンサート (ライブとは呼ばなかった)での事
神戸を舞台にした新しい曲 「タワーサイド・メモリー」 の紹介MCで
実はこの詩は、神戸港のポートタワー近くのロケーションだけど
古臭くて薄暗いビジネスホテルの一室で書かれた曲だったと
観客の笑いを誘っていたが、そのホテルの名を聞いてドキっとした

あのカレンダーを捨てたホテルだったのだ

曲の間、隣の素敵な女性の事も忘れ、あの夏を思い出していたっけ

そんな、大昔のタワーサイドメモリーが蘇ったのは
寒の戻りで六甲から冷たい風の吹く、神戸元町高架下
丸玉食堂の紹興酒が少し熱過ぎたからだろう

あれから何十年経ってもユーミンは、神戸のライブでは
最後にこの曲を唄ってるそうだ

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コメント

コメント一覧 (6件)

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    我が家の初孫さゆりんが、つい最近17歳になったのだけれど。
    17歳って青年だろうか、まだ少年だろうか?
    いや、青年の入り口…少年と青年の間(あわい)とでも言うのだろうか。
    微妙な年齢のこころの動き、そんな時代のスロさんが目に浮かびます。 0

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    あれですか、そのカレンダーは上だけではなく、下も丸見えだったのですか?
    だとしたら、当時としては貴重品、丸めてポイは後悔しまくったでしょうに?
    スロさんなら、想像だけでも充分楽しめたとは思いますが図星ですか?
    バイト代で単車でも買ったのかしらね?

    伏線が多くて質問攻めで失礼しました。
    だってツッコミどころ満載なんだもん。 0

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    palletさん
    震災の記事、ずいぶん前に拝見したのですが、お孫さんと
    お二人、夕暮れに、人波に流されながら自転車で駈ける
    シーンが何故か映像で見たかのように脳裏に残ってて・・・
    あのお孫さんが17歳なんですね♪
    えー、私的には17歳なんて大人びてようが生意気だろう
    が少年、いやガキでしたね(^^;) 0

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    ケーコさん
    だからぁ、全裸って書いてるじゃないですか^^;
    上も下も裸なのが全裸、もうそりゃたいへん(うふふ)
    苦労して買った中古のバイク、すぐに壊れちゃいました(´Д`;) 0

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    はじめまして。

    昨日、神戸ワールド記念ホールで行われたユーミンのライヴに行ってきました。
    ラストはお約束のタワーサイドメモリー。
    元々大好きな曲でしたが、生では初めて聴きました。
    ネットでまつわる話を知りたくて検索していた、こちらに辿り着きました。

    面白いエピソード、素敵な思い出、写真をありがとうございました!
    オチも最高です!
    文章や写真に惹き込まれて何度も読み返しました。
    追々、他のブログも読ませていただきます。 0

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    Solidさん

    こちらこそはじめまして
    今も神戸ではラストにこのナンバーですか!
    それは大いに盛り上がったことでしょうね
    私は40周年の日本武道館(3階の一番奥^^;)
    行ったっきりなので本当に羨ましいです!
    お褒め頂き恐縮ですが、基本的に登山に特化した
    極私的な記録なので他の記事はあまり、、、
    コメントありがとうございました^^ 1

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