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冬の旅路 津軽七つの雪(後)

太宰治は、津軽には七つの雪があると記している
「こな雪」「つぶ雪」「わた雪」「みず雪」「かた雪」「ざらめ雪」「こほり雪」

昨日からの旅では、いくつの雪を見ただろう
どこを見ても雪、道路は雪で溢れ渋滞し、駅の扉は雪で開かない、鉄道は雪で運休
雪、雪、雪、また雪よ

青森駅までの小さな駅、作業服姿の人たちの雪下ろしシーンは
まるで昨日のデジャブ、そんな風景にも東北の人たちの我慢強さが伺える
弘前駅から青森駅へ、青森駅から盛岡駅へ、そして秋田駅へと旅は続く
秋田駅に着くころには陽も暮れて、駅前は吹雪
駅からホテルまで、7分ほどの距離がどれだけ長く感じたことか
大鰐温泉駅のバス停で冷え切ったまま、体が元に戻っていないのだろうか
まるで津軽の雪の冷たさが体の芯に残っているかのように
ホテルで少し休憩すると、吹雪く夜の街へ
予約していた郷土料理のお店は、期待通りのシブめなムード

さっそく、比内地鶏と魚を囲炉裏で炙っていただく
これが美味い、いや、そりゃ美味いさ
お店の中を忙しく動き回るお嬢さんも、クラシカルな衣装がお似合いで
思わず、お酒のお代わりも進む
〆はもちろん、きりたんぽ鍋
比内地鶏の出汁とせりの根の甘さが相まって
こんなに美味しい鍋だったんだ、としみじみ
翌朝、まだ吹雪は止まず、落ち込みながら支度をして
朝食に行こうとしたとき、一気に空が晴れ渡り、ホテルの窓から大平山がくっきりと

あぁ、やっと雪景色から離れられるぞ
と、秋田のお米の食べ比べができる、ごちそうバイキングをいただきながら
今日は、角館で途中下車して、雪化粧された武家屋敷を散策しよう
となると、ランチは稲庭うどんだ、なぁんて盛り上がっていた
が、、、
晴天は、一瞬で消え去ったようで、ホテルを出るとすでに吹雪

駅に着くころには身体も冷え切って、角館の武家屋敷だの稲庭うどんだの
やっと観光できるとの期待はもろくも消え去り、、、
そんなことで、旅をあきらめる訳には行かない
よし、じゃ晴れ予報の盛岡駅で途中下車、ランチはわんこそばでどうだ?

この案に嫁さんも大喜びで、もろ手を挙げて大賛成
こまちのシートから、徐々に晴れてゆく雪景色を見ながら、盛岡のわんこそばを検索し
駅前の老舗である東屋で開店前から並んで待つ(それほどの人気店だった)

開店と同時に座敷はお祭り状態
ここでもクラシカルな衣装のお嬢さんたち、「はい、どんどぉん」「はい、じゃんじゃぁん」
可愛い掛け声とともに、次から次へとそばが椀に乗り、ちゃんと味わう余裕はなかったが
そば自体もお出汁も美味しくて、夫婦で120杯たいらげた
成り行きとはいえ、旅の最後はわんこそばとは
まったく思いもつかなかったエンディング
帰路の新幹線の中では缶ビールを空けみちのくの旅を想う

なぜだろう、頭に浮かぶのは、雪景色でもごちそうでもない
吹雪の中30分じっと動かずバス停に立っていた手ぬぐいの老人の後ろ姿だったり
奥羽本線の小さな駅のホームで雪かきをしていた人たちの、あきらめの顔だったり

不思議なものだけど
でも、旅の記憶ってそんなものだろう
行けばどうにかなるさ

そんな冬の旅路
津軽の七つの雪に閉ざされる旅となった
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