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情景 涸沢ヒュッテにて



2022年GWの山旅は残雪の北穂高を目指した

涸沢でのテント泊は何度もあるが小屋泊は二度目だった
前回もここ涸沢ヒュッテ、それももう8年も前の事だ

8年ぶりの涸沢ヒュッテ泊
もちろん宿泊者制限をした上で完全予約制となっている
ウェブサイトで残り少ない表示を見て慌てて予約し、上高地へと発った



上高地から6時間かけてやって来た涸沢は雪景色が眩くて
早く荷物をほどいてテラスで生ビールを呑みたくてうずうず
受付では久々にお顔を拝見するオーナーの山口さんも登山者の多さに忙しそう
そのお姿はとても嬉しそうに生き生きとして見えた
部屋は食堂フロアから一段下ったエリアで、カーテンで仕切られた個室タイプ
これだとプライバシーも守られ、密じゃなくて安心だ
8年前は天気が今ひとつだったっけ
食堂の窓からこんな景色が見えただなんて知らなかった
こんなに素晴らしい食堂だったんだ
そしてコーナー毎にりっぱな額縁に収められた絵画があり
インテリアと相まって重厚な空気を醸し出している
本館、別館、新館と増改築を繰り返しているが1950年代から在る小屋は
そこに漂う香りさえ歴史を感じさせてくれる
宿泊料は一泊二食で¥13,000、テント場利用は一人\2,000
いつの間にそんな高額になったのかと、正直そう思う
しかし、このコロナ渦による営業制限に加え、物価上昇に感染対策コスト
そして2022年2月世界情勢は一変し、半導体から燃料、小麦粉に至るまで
世界的な供給バランスが崩れ、我々一般市民にもその影響が現れている今
北アルプスの山小屋だって料金アップせざるを得ないことは理解できる
その涸沢ヒュッテの食堂運営では、感染対策に驚くほど力を入れていた
まず17時から1回40分の食事をその日の人数によって数セット回すのだが
席数を間引いているので、当然セット数も増え、その分手間も増えることになる
その席の間引き方にも工夫があって、人と人が対面で座ることは無いよう
椅子が交互に配置され、全員が窓に向かって一列に座るテーブルもある


もちろん食事の給仕にも工夫が施されていた
各席に用意されている料理が乗ったお盆には、きちんと蓋がされてあり
宿泊者が着席すると係の人がご飯と味噌汁を運んで来てから蓋を取ってくれ
お代わりも手を挙げると、さっと来てくれて新しいお茶碗と交換してくれる
そしてひとテーブルが空くと、テーブル全体はもちろん椅子の座面まで消毒し
次のグループ用の蓋がされたお盆が並べられて行くのだ
街中でもここまで徹底した対策を行っている業態があるだろうか
その運用がスムーズに執り行われるよう、きっと総動員だろう
ビニール手袋をした何人もの係が配置されて、お代わりと消毒をこなしている
黙々と行われるその流れ作業は、見ていて気持ち良く
何よりも精神衛生上たいへん安心できるものだ


そんな様々な努力と工夫を目の当たりにすると、山小屋の真剣さ
(いや、生き残るための必死さだろうか)が感じられ
その存在のありがたさが身に染みる気がする
でも、あの情景が無くなるなんて


テーブルも椅子もぎゅう詰めになった狭い席、お隣さんと肘がぶつかる近さで
見知らぬ人にお茶碗を回してもらい、おひつに近い人が必然的によそう係になって
お茶を注いでくれる人、漬物を回してくれる人、そんな役割と連携が自然と出来上がり
最初はぼそぼそとした会話も、食事が終わるころには和気あいあいとなって行き
場合によってはそのままグループで談話室に席を変えて山談義に盛り上がったりも
あの山小屋ならではの風情ある情景はもう無くなったのだ
たった3年前まではどの山小屋にも普通にあったものが
そう思うと
ちょっと寂しくなるけれど

一瞬にして世界が変わっても
穂高は穂高のままで、あいかわらず美しく気高く、そして厳しく
今日もこうして我々を見下ろしている
そう、何がどう変わっても山は、穂高は変わらない
だから、だから大丈夫さ

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