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ホームレスと槍ヶ岳

季節外れの雪雲が東京の空を覆い、夕方から小雪が舞った寒い夜のことだった
朝からの品川出張は珍しく18時には終わり、いつになくご機嫌な帰り道
久しぶりに上野駅をぶらぶらと歩き、書店に立ち寄った
アトレ上野にある書店は、人いきれと本の香りに包まれて、それが妙に懐かしくて
新書、文庫、そして最後に山の雑誌、人ごみに紛れてヤマケイを探してると
女性の大きな声が響いた

「もう、警備員さんに来てもらいますよ?いいですね?」

一瞬、店内が静まった

何事か?と視線が集まるのは、私の斜め後ろ2メートルのところ

誰がどう見てもホームレスと思わしき男と、その男に詰め寄る女性店員
なんだろうなぁ、ヤマケイを手にしながらも気になって耳を傾ける

「これ買ってもうらわなければいけません!こんなになっちゃって」

どうやら男は本を汚したか破損したか、そんなところだろう
状況が分かると周囲の客も私もそれぞれ自分の手にする本に戻る
が、私は見てしまったのだ、男が手にするもの、それは昭文社山と高原地図だ
私とそんなに歳は違わないであろう男が、若い店員に詰め寄られても地図を握りしめている姿
なんだか、その薄汚れた姿が憐れと言うか、哀しいと言うか・・・

「見てただけだって」 「汚されたら買ってもうらうしかありません」

「オレだって汚したくって汚したんじゃないよ」 「買って頂きます!」


すぐに現れたガードマンに連れられて、レジのところで続く押し問答は
男の東北地方っぽい訛りと、酔っぱらいのような不明瞭な声が、なおさら憐れさを誘う
やがて、男は汚れたズボンのポケットから出てきた小銭で払うと上野駅構内に消えた

たったそれだけ、ほんの3分ほどの出来事が妙に気になったのは
やはり山と高原の地図だ、あのホームレスはどこの地図を見てたんだろうか?
いつか登るつもり?いや、かつて登った山?そんなことを思いながら

地下道へと下ったとき、日比谷線への通路に、ぽつんとそれが落ちていた

地図のカバーだ、拾ってみるとナンバー37 「槍ヶ岳・穂高岳」 だった
そうか・・・ふぅん。槍ヶ岳かぁ・・・。いつか歩いたのかなぁ、槍・・・。
カバーをどうしたものか迷いながら歩いていると
メトロの券売機横の隅っこ、その男は寝っ転がっていた
地図を胸いっぱいに広げ、まるで世界一暖かい毛布でもかけているかのように
凍てついた地下道の隅っこで、幸せそうな、満足そうな顔で寝ていた
その顔には憐れさなんてかけらも無くて、それがなんだか羨ましくて

お互い、たまにはいい夢見ようか

無言で語りかけると、男の頭の横にカバーをそっと置いて立ち去った

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コメント

コメント一覧 (6件)

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    こんばんは はじめまして
    いい話ですね。
    私もちょっとじ~~んときました。
    今夜はいい夢みられそうです♪ 0

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    dahanさん

    ジーンてきましたか・・・、コメントありがとう
    新年度、お互いたいへんですが、頑張りましょう!「 0

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    pallet-sorairoさん

    こちらこそ、はじめまして
    画像の美しいサイトですね!

    >今夜はいい夢みられそうです♪

    嬉しいいコメントありがとうございます
    私も、いい夢みれるよう願いながら寝ますねー 0

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    はじめまして、
    記事ランキングの上位10を上から読んでて
    ここで、なんだか泣けました
    わたし涙もろいのです

    で、ルネさんも見つけました、一度だけ
    大台ヶ原でご一緒してお会いしたことがあるのです

    美味しそうなブログ、とても気に入ったので
    またのぞきに来ます
    0

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    tukinoboさん
    こちらこそはじめまして、可愛いHNですね
    ルネさんと?大台?
    と、驚きとともにサイトをチラ見すると(笑)なんとなんと
    水曜会なんて、どこかで風のうわさに聞いたようなキーワード
    ほんと、山の世界は狭いですよね
    気に入って頂けたら嬉しい限りです、私もお邪魔しますね 0

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